舞の、泣きかけの貌(かお)が好きだ。
いまにも頬を涙がつたいそうなのに、必死にそれにあらがって、かたく口をむすんでいる、その、貌が。

わたしが、痛いことや恥ずかしいことを要求すると、彼女は眉をひそめていやいやをする。
――じゃあ舞のかわりに、他の子にしてもらおうかな。
そう言うと、もっといやいやをする。こんどは、こぼれんばかりに涙をためて。
ごめんね舞。
わたしは、あなたが哀しむことばかり、言ってしまうね。


「さあ舞、明日はこれを着て学校に来てねーっ」
「これ・・・?」
「ほら、舞、このあいだ体操服忘れて叱られてたでしょ? だから、また忘れたりしないように、舞は朝から体操服ーっ」
「・・・べつに、いいけど」
「あ、でも制服の下に着てくるのはなしーっ」
「え・・・・・・?」
「だから、制服は着ないで、体操服とブルマで登校するの。授業も受けるの。あははーっ、もう舞ったら、せっかちさんなんだからーっ」
「体育は、五限目・・・」
「ああ〜、川澄はなんてしっかりした子なんだろう、おなじ失敗をくりかえさないようにしてるんだなあ・・・ってみんなに見なおされること間違いなしッあァはははははははァーーーッ」
「五限・・・」
「ん? なに? 何か、言った? 舞? ん? まさか、いやだなんて、言わないよね? せっかく、舞がみんなからよく思われるように、いっしょうけんめい考えてあげたのに、その気持ちを無視したりは、しないよね? ねえ? 舞? 着てくるよねぇぇ?」
「・・・・・・うん」

そっと伏せたまなざしに、揺れ沈む舞の想いがかいまみえて、わたしはぞくりとする。
ごめんね舞。
わたしは、いつだって、あなたを苦しめて・・・

でも、お願い。
わたしを、見捨てないで。
わたしから、逃げないで。
わたしをおきざりにしていった、あの子みたいに。
あなたがいてくれるから、あなたがわたしをうけいれてくれるから、
わたしはここに、いられるのだから。
ごめんね舞。
いつか、わたしは罰せられるよね。

でも、お願い。
そのときがきたら、あなたの手で、わたしを裁いて。
あなたの口から、「もういいよ」って、わたしの耳にささやいて。
そうすれば、きっとわたしは、しあわせな気分のまま、眠れると思うから。
つらい記憶もなにもかも、おきざりにしていけると思うから。

わたしは、その日がくるのを待ちわびながら・・・


うずく手首の傷痕を、いまもなだめつづけている。



END


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